ハイドロシトロエンにとって、油圧システムは最も特徴的かつ魅力的な部分であると同時に、最大の危険性を抱え込んでいるところでもあります。
過去に経験した中から3例をご紹介。
1)maetaccqさんのCXのケース
CXの個人売買の話が舞い込んだことから、maetaccqさんは2400IE-Pallasだったと思いますがこれを購入。かなり技術的な面に精通した方ゆえに、普段はBXだったけれど、このCXは格好の試験台にもなっていたように思います。
お互いの自宅などで、遊び半分にあれこれの作業をやる(私はできないから説明を聞きながら見るだけ)などよく往来がありました。具体的な内容は忘れましたが、なにかをやって近所に試運転に出ての帰り、あと角を2回ほど曲がれば私の自宅に到着するというときに、突然、ハイドロの異常を知らせる「STOP」などの警告灯が盛大に点灯、同時にピーと緊急を知らせる警告音も鳴り響き、車内の空気は一変しました。ハンドルを握るmaetaccqさんは、以前にもCX所有の経験があるから何を意味するかは瞬時に飲み込めたようで、油圧がこと切れるまでの最後の運転に、まるで操縦不能の機体を不時着させるパイロットのごとく全身全霊を傾けました。高圧側のホース破断などが起こると、その瞬間から車全体を司る油圧がすべて失われるので、まずパワステがきかなくなり、ブレーキもかろうじて路肩によって止まるだけの数回分ぐらいしかありません。CXのような大型車で走行中突然パワステが効かなるというのは、事実上ハンドルがほぼ効かなくなるのと同義で操作は極めて困難となり、maetaccqさんはそれこそ腰を受かせるぐらいの全力を振り絞って重いハンドルを操作されましたが、危うく電柱に衝突せんばかりの危険もあったりしながらもかろうじてこれをかわし、いうなれば命からがら我が家の前に到着しましたが、これで万事休すです。
あとはシロウトにできることはなく、車載車を呼ぶしかありません。
(2)SさんのXM-Xのケース
拙宅に来られたのか、どこかに出かけた帰りに送っていただいたのかは忘れましたが、夜の12時をまわったころ、Sさんは帰宅されるべく、当時の愛車であるXM-Xを駆って我が家を後にされました。それから15分か20分、正確なことは覚えていませんが、今しがた別れたばかりのSさんから電話があって、てっきり忘れ物か何かかな?と思ったら、「車が止まったんですよ。今☓☓橋を越えて曲がったところにいます」ということで「とりあえずそっちに行きます」ということで急いで身支度し、ガレージに駆け下り、すぐに現場に向かいました。
聞いたのは☓☓橋の先のどこか曲がったところに止まっているということだけで、細かい場所はわからなかったけれど、あとは電話もあるし近くに行けばなんとかなるだろう…ぐらいに思っていました。☓☓橋を渡り終えるとおおむね現場近くにさしかかり、どこだろう?と思っていると、ライトの先に照らし出されたのは、路上のやや左よりぐらいのところに点々とオイルらしきものがこぼれた跡で、ははん、これだろうと直感しました。チルチルとミチルではないけれど、これを辿っていけば場所がわかると思い、そのようにしたら、すぐ先の角でその点々は左に折れており、そのパンくずならぬオイル滲みを頼りに曲がってみると、その先の暗闇の中に、いましがた送り出したばかりのXMがベタンと車高を落として止まっており、傍らにはSさんが苦笑いしながら立っておられました。すでに車載車の手配なども終わっており、その到着を待って積み込みの様子を見守りましたが、Sさんの手慣れた処置とまったく動じない様子は大したもので、その後Sさんを自宅まで送り届けて真夜中の帰宅となりました。
(3)私(Chirac)のXmのケース
正確な時期は忘れましたが、家族と博多座の歌舞伎公演に行くことなり、夜の部は坂田藤十郎と坂東三津五郎が交互に主役をつとめる演目でしたが、それを観た帰り道、我がXmは天神で信号停車中、これまでついぞ見たこともないような警告灯が総力を上げて点灯しだし、びっくりして車を降りあたりを見回すと、案の定、リアあたりから大量のLHMが漏れだしていました。芝居の余韻もなにも一瞬にして吹き飛んだのいうまでもありません。また運の悪いことに、場所がアクロス福岡の北側まん前という福岡市内でも最も中心的な場所で、これ以上ない恥ずかしいロケーションでした。
この頃になると、家人も「シトロエンとはこんなもの」と達観するようになって、どうせ今からなにか時間のかかることが始まるのだろうからと、すんなりタクシーで帰宅していきました。友人に電話すると救援に駆けつけてはくれましたが、現実的には何もできない人間が1人から2人になっただけで、なすべきことは保険会社に電話して車載車を呼ぶことと工場に連絡をつけることでそれに集中。
場所が場所だけに人通りも多かったけれど、覚悟したわりにアクロス前の広い歩道を行き交う人達の大半は無関心で、チラ見する程度でしたが、それよりも左折専用車線を塞いでしまっているので、続々と来る車すべてがいったん右に避けながら左折していくのが申し訳ないし、さらにここは中央警察署が目と鼻の先なのでそれもヒヤヒヤでした。ようやく車載車が到着し積み込みが終わって走り去ったあとには、明るい街灯の下の夜目にもきれいなアスファルトの路上に、LHMがだらしなく広がり、なんともやるせない気分でした。
ここは博多座から、車で走ればわずか1〜2分の場所ですが、それ以前から問題は起き始めていたとも考えられ、もし往きににこうなっていたら芝居はお流れになっていたはずで、終演まで待ってくれていたのかもしれません。
※救援を呼ぶ際に忘れてならないことは、車が油圧式サスペンションで「車高が落ちているからレッカーは使えず、積載車でないと運べない」ということを、必ず伝えることです。