投稿ページに「液足」というタイトルで書いたEDGE誌別冊ですが、その後半は「VINTAGE & CLASSIC MODEL ARCHIVE」というページになり、「輸入車の華である名車やその予備軍、ヴィンテージモデルたち。もしこのうち一台でも実際に手に入れたなら輸入車ライフはもっと豊かになるに違いない。」とあり、そのように目された車たちがピックアップされてアルファベット順に並んでいました。
当然ながらAのアルファロメオから始まり、最後はVのフォルクスワーゲンまで、80台ほどが紹介されています。
このページの目的とするところは、「まだ十分購入が可能な次期名車候補モデルで、更に評価が高まる可能性も…」ということのようですが、先頭の1台はアルファロメオのジュリエッタ・スプリント・スペチアーレだったり、フェラーリではF40より生産台数の少ない288GTOとか、ランチア・ハイエナ・ザガートなどもあって、こんなものが十分購入可能というのも大いに疑問と思いましたが、それは置いといて、我らがシトロエンはというとGSとC6が並んでいました。
C6こそはこのページに相応しい一台と大いに納得。「まだ評価は高くなく流通価格も低いまま」とされていますが、これこそDS、SMに連なる名車の栄誉を勝ち取りそうな予感がします。
特集文の中にも、某ショップを紹介するページには「シトロエンC6という美しいセダンがある。このクルマを愛好する人達の力になりたい。」といった文言があるなど、このモデルの特別感がチラチラしています。
フランス車には、戦前のブガッティやドライエ、戦後はファセル・ヴェガのような一部の車を除けば、本質的に高級車というものが存在せず、その空白を辛うじて埋めていたのが大型シトロエンで、その役割の中で最後に咲いた大輪の花こそC6でしょう。
人によっては「現在もプジョーの508や導入間もないDS9があるじゃないか」とする向きもあるかもしれませんが、なんとなくそれらをもってフランスの高級車とすることにはもうひとつピンと来ない人も多いはずで、プジョーはかつては605や607もあったし、DSシリーズはフランス版レクサスといった感じの俗っぽさがあり、今どきの仕組まれた感が抜けきれません。
DS7やDS9は、グローバル基準に沿って作られた(もっとはっきり言ってしまえば中国市場をターゲットとした)車で、フランスの自由な本音の調べがなく、顔つきも漫画のブラックジャックのようなわざとらしさを感じたりと、否定はしませんが惹き込まれもしません。
やっぱり、中国市場を見ているというのは拭えず、その点でいうと、次期BMWの新7シリーズなんて媚びへつらいが高じてか、まるで中国の高級車「紅旗」を後追いするような雰囲気で、ここまでやるかと思ったり。
個人的に驚いたのは、DS9はカーグラ(2022年7月号)によれば中国生産なんだそうで、フランスの空気を一度もくぐったことのない、ニイハオの国のフランス車というのも、そんな時代なんだといえばそれっきりですが、気持ちの切り替えが追いつきません。
ちなみに、C5エアクロスは欧州より先に中国で発表/生産されたので、これこそ中国製じゃないかと疑いを持ちましたが、ヨーロッパ及び日本市場向けはフランスのレンヌ工場製だそうで、それにひきかえフラッグシップたるDS9がMade in Chinaとは驚きです。
長らくシトロエンを格別のご贔屓だったカーグラも、DS9には実にそっけなく、評価は比較テストされた508ハイブリッドのほうに軍配が上がっています。「乗り心地は軽快感は覚えるが、柔らかくも硬くもないく、中庸を射たセッティングというべき」とあり、サルーン好きの中国人向けに作った、性能は普通でDSというプレミアムブランドやデザイン、内装の豪華さを楽しむための車という印象です。「車としてはPSAの中では最もコンサバティヴな一台」だそうで、アバンギャルドの思想とは党派が違うようです。
だからかどうかは知りませんが、ダッシュボードにからくり時計みたいなものがあったり、ヘッドライトが点灯のたびにミラーボールみたいなものがクルクル回ったりと、あんなのは別に有り難くもなく、むしろ故障要因にしかならないと思ってしまうけれど、それを喜ぶであろう人達の巨大市場があって、ビジネスなんだからやむを得ないということろでしょうか。
そういえば中国国内だけで販売された二代目C6とかいう、なんとも不気味な車がありましたが、あの顧客層がターゲットで、それをより押し広げていこうといった目論見で、ついでに中国以外でも売れるなら売る…ぐらいな感じなのかもしれません。
もともとフランスという国は、冒険や挑戦や独創性、ときに傲慢でもあるけれど、ともかく人をアッと驚かせることが好きで、ありきたりなものでは良しとしないイメージがあります。よって、全体としてはとてつもない発想力のある気質や文化基盤を持っていますが、その斬新性に頼りすぎるのか、製品として完成に導いて定着させるというのが苦手で、商業的には失敗で終わってしまうところがしばしばありました。その最たるものがコンコルドなどでは?と思います。
コンコルドという名が出たついでに飛行機ネタで言うと、フランスには1960年代の終わりにボーイング737やDC-9に対抗する短距離用の意欲作で、ダッソー・メルキュールという旅客機がありました。ライバルよりやや大型で快適性を謳い、見た目もアメリカ製よりはるかにすっきりした美しい飛行機でしたが、欧州エリアなど短距離路線に特化した設計だったことが裏目に出て柔軟性に欠けるとされ、1500機の生産目標だったものが僅か12機作られただけ終わります。
プロトタイプを含めて20機が作られたコンコルドより、数の上ではさらにレアな機体といえますが、このメルキュールは全機がフランスのエール・アンテール1社のみによって20年以上にわたって運行されたというのも、変なスゴ味を感じるところです。
それより前の1950年代には、シュド・カラベルというリアエンジンにT字尾翼をはじめて採用した短中距離用のジェット旅客機があり、この斬新な発想がのちのボーイング727やDC-9、英国のVC-10やトライデントなどに受け継がれます。
カラベルはライバル機がなかったこともあってかそこそこの成功を収めますが、全般として、センスや発想は素晴らしいのに不遇のまま幕引きとなるパターンもある意味フランスっぽく、そこでシトロエンに話を戻すと、C6はその突出した素晴らしさにもかかわらず、不遇な運命をまたも辿ってしまったという点でフランスど真ん中の要素満載のクルマじゃないかと思います。
多少の贔屓目もあるにせよ、私の目には同時代のメルセデスのEクラス、BMWの5シリーズ、ジャガーのXEなどと比べても、C6は比較にならないほどの輝きがあり、シックで芸術的、そしてなによりカリスマ性がある。クオリティの面でもついにはドイツ車を凌ぐ域に達していると思うし、これはもう芳醇なワインのような味わい(〜がどんなものか知らないけれど)があるように思います。
生産台数もひとケタ間違ってやしないか?と思うほど少なく、これは将来、お値打ちになる資格十分と思えて仕方ありません。
乗ってよし、見てよし、被写体としても最高、さらには秀逸な設計とクオリティを証明する故障の少なさなど、再評価されないほうがおかしい車だと思うのです。
C6礼賛は、現役オーナーだとさすがにそうそうお手盛りはできませんでしたが、今はもう思う存分それが言えるようになって遠慮はいりません。
今、車は新車/中古を問わずかつてないほど高騰しているそうですね。
コロナが引き起こした半導体不足から、ロシアの軍事侵攻によるエネルギー問題まで絡み込んで、それは業者が驚くほどだとか。
私は相場の行方などわかりませんが、もしC6の価値が見直される潮目が来たら、今のような価格で手に入れられる時期があったことを、歯ぎしりしながら回想することになるのかもしれません。