人と車のキャラ

『幸せなひとりぼっち』という2016年制作のスウェーデン映画を見ました。
主人公は太陽のように美しい最愛の奥さんを亡くして生きる望みを失い、何度も自死を試みようとする頑固で妥協を知らない独居老人です。

世の中のことすべてが気に入らず、集合住宅のルールにも厳格、毎朝敷地内の見回りをしては違反者には容赦ない叱責と、そこから巻き起こるトラブルが日課みたいな人です。

この映画では、車が脇役として登場し、主人公は父親の代から生涯にわたってサーブだけを乗り継いでいますが、同じ住宅地に暮らす知人はボルボ一辺倒なのが甚だ気に入らない。それでも、しぶしぶ折れて和解したのに、今度はその人がBMWを買ったものだから再び関係は悪化。
また、別の人が「ルノーを買う」というと「フランス車なんか…」と切り捨てます。

そんなことを繰り返しながらも、ようやっと周囲のコミュニティに少しずつ溶け込めたかと思えた頃、雪の降る朝、静かに天に召されます。

北欧の美しい映画でしたが、トム・ハンクスがこの作品をいたく気に入って、今秋自身の主演でリメイクするのだとか。大スターが演じれば違った輝きは出るかもしれませんが、この作品に漂う微妙な雰囲気は失われるような気がします。

車というのは、選ぶ人のセンスや価値観を示す小さくはない表現で、他人のそれが気に入らないというのも、心情としてはわかる気がします。
あえてシトロエンを選ぶ我々にも、相通じるものが声にはせずとも…ありますよね。


余談ですが、このところのロシアのウクライナ侵攻では、露軍の誇る最新鋭戦車がバンバン爆破されていく映像がありますが、使われる武器はアメリカ製はもちろん、実はスウェーデンはNATO非加盟でありながら世界有数の武器開発/製造/輸出国だそうで、その兵器がウクライナにも続々と供与され目覚ましい成果を上げているんだとか。
そのメーカーというのが、なんと「SAAB」というのはびっくりで、小型飛行機とか車から抱く温和なイメージとは裏腹に、実は世界屈指の軍事メーカーで、その優れた性能の前に露軍もタジタジだとか。


いぜん見た、『ハロルドが笑う その日まで』というスウェーデン映画でも、主人公は小さくも良心的な家具店を営んできたのに、突然目の前にIKEAができたものだから、ブチ切れて自分の店に火をかけたあと、IKEAの社長を誘拐して懲らしめるための旅に出るというヒューマンドラマがありました。そこで使われるのも旧式なSAABで、スウェーデンにおいてSAABはなにか特別なものがあるんだなぁと思いました。

もしも、シトロエンが軍事メーカーという別の側面を持っていて、あのマークは実はミサイルの飛翔をあらわし、スフィアは砲弾製造術の転用からきているなんてことになったら、そりゃあびっくりしますよね。

人と車のキャラ」への6件のフィードバック

  1. スウェーデン映画ですか!あまり馴染みが無いのですが内容の説明を見たら素朴な人間関係に織りなすクルマ趣味が見え隠れして中々に面白そうな映画ですね。昔、東ドイツの映画を観たことがありましたが、暗くて後味の悪い思いをした事があります。サーブは雑誌の広告で自社製の戦闘機と並んだ写真を見た事があります。小さいながらも独創的なクルマがあり、バブルの頃にもてはやされた900なんかはよく出来たクルマだと思いました。
    軍需産業の方が儲かるので撤退したのですね。向こうのメーカーは
    日本車と違い余りモデルチェンジをしない、永く所有する文化があるように思えます。メーカーこそ違いますが愛着を持って所有する感覚は多分に理解できます。

    • 映画もクルマと同じで、自分との相性だと思います。とはいえ、好みを超越して「いいものはいい」というのも両者同じすが。
      サーブは戦闘機と並んだ広告もあったんですね!私は不勉強で現役の軍事メーカーだなんて、ちっとも知りませんでした。
      近年はヨーロッパのメーカーが日本の車作り見倣って、売れよがしの骨のない車ばかり作るようになり、愛着を持って長く所有するような車は激減していますね。電気製品と同じで(実際クルマもEVの時代ですが)ただの生活具としての地位に成り下がり、自動車文化も絶滅の危機ですね。洗濯機文化なんてものが無いように。
      CCQではkunnyさんが大変な映画通で、いつも教えてもらっています。

  2. 「幸せなひとりぼっち」見終わりました。頑迷な主人公のSAABへのこだわりが凄いですよね。今までVOLVOを乗り継いできた隣人が「新車を買ったので見てくれ」とガレージから出てきたのがBMWのオープン!、それを見て怒ったようにその場を後にするシーンでは思わず声を出して笑ってしまいした。
    随所に見えるVOLVOへの敵愾心、フランス車は車とも認めてないのが、意固地な主人公のキャラクターとして面白かったです。

    フランス車を無視する主人公にシトロエン原理主義者(?)には怒る人もいるかもしれませんが、僕はこの映画を楽しく鑑賞しました。僕たちシトロエン愛好家は主人公のSAABをシトロエンに置き換えて観たら良いですね。

    そういえばでアカデミー外国映画賞をとった「drive my car」という日本映画でも赤いSAABが出るらしいですね。僕はまだ見てませんが。

    • さっそく見ていただいたとは嬉しい限りです。
      おっしゃるとおりで、シトロエンであれ、その他であれ、クルマ好きは車種を置き換えればいいわけです。

      あの主人公は、頑迷で、傍迷惑な滑稽な人物として描かれていますが、個人的には共感や感情移入できる点もあり、人間的真実のツボを押さえながら、人生の悲哀を暖かく描いたものだったと思います。
      クルマ好きとしていささか大袈裟なこというと、車選びには、良くも悪くもその人の人生が滲み出ますね。

      安い車でも乗りこなしで豊かさを感じさせる人もあれば、狙いや思惑とは裏腹にその真逆の現象も数多く…いろいろです。

  3. 幸せなひとりぼっち、観ました。
    主人公のいぶし銀的な存在感と近所の人々の絡みが絶妙ですね。
    みんな優しくて理解のある隣人で、ほのぼのしてます。
    くだんの仲直りしようと話しかけてBMのオープンを見た途端にまた喧嘩してみたり、人のクルマにぶつけておいて、ボルボなら構わないとか。
    サーブ以外は全く論外で狂信的なのにどこか憎めない。
    見終わった後のほんわかした気持ちになりました。作品としての出来も中々良かったと思います。
    紹介くださり楽しい時間を過ごせました、ありがとうございました。

    • なんと見られましたか!
      直接のシトロエンネタではありませんでしたが、そう言っていただけると、投稿した甲斐がありました。
      あの主人公は、扱いにくい変人として描かれていますが、私は自分を重ねてしまう瞬間が幾つもあって、笑いと共感を込めて見ることができました。

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