『パリタクシー』

パリを舞台にした、タクシー運転手と老女の触れ合いを描いた映画がよかったのでご紹介。(Amazon Prime)

人生を追い詰められた運転手がお客として乗せることになった老女は、自宅生活をやめて施設に入ることになり、その移動のためタクシーへ乗り込みます。

その車中での何気ない会話から、やがて驚くべき人生のあれこれが語られ、はじめは怒りっぽく無愛想だった運転手もしだいにこの老女に心を開きはじめます。

単なる移動だったものが、求めに応じて寄り道などするうちにそれは数時間に及び、ついには夜も更けて、打ち解けたぶん最後は辛い別れとなりますが…。


車はシトロエンではないだろう…という予測は当たっていて、ルノーのエスパス(たぶん)でしたが、パリで走る姿はなかなかのもので、背景として映り込む街並みの息を呑む美しさ、そしてなにより見る者の心に触れる人生の問いかけが見事。

決してベタベタせず、都会的な制御がかかっていて、さすがはフランスだと唸りました。

2023年フランス製作 監督はクリスチャン・カリオン
※写真はネットよりお借りしました。

オリンピック

パリ五輪の開会式では、開始間もないシーンで聖火を手にしたジダンが街中を駆け抜けて行く中に、2CVや複数のDSが出てきて「オオ!」っとなりました。

万一に備えて録画していたので、あらためて見てみると1960年代のパリの風景を表現したのか、ほかにもルノー4やパナールまで出てきて、ほんのわずかのシーンをチェックするのに忙しいことといったらありません。

驚いたことには、その中になんと初代のダルマセリカやクジラクラウンが紛れ込んでおり、これには我が目を疑いました。
何か意図するところがあったのか、ただ単に古い車をエキストラとしてかき集めただけなのかわかりませんが、このシーン、当日の悪天候に比べるとお天気は快晴、どう考えても事前に収録されたものでしょうね。

実際はすでに曇天で、ほどなく無情にも雨粒が落ちはじめ、さらに時間が経つほどにそれは激しいものとなって、その中でダンスを始め必死にパフォーマンスに打ち込む大勢の人が気の毒なほど。
選手たちの乗る船もときに大きく上下に揺れるのがあったりで、きっとDSの乗り心地どころではなかったでしょう。

そんな激しい雨が打ちつける中、フランス人ピアニストのアレクサンドル・カントロフが、ずぶ濡れのピアノで自身もずぶ濡れになりながら弾いていたのは、皮肉にもラヴェル作曲の『水の戯れ』で、なんとも奇妙な光景でした。

一部の演出にはいろいろと批判もあるようですが、随所に散りばめられたそのセンスはやはりさすがでした。

お茶会その他

7月もつつがなくお茶会を終えることができました。
今回は、偶然にも食事からデザートにいたるまで、4人が4人、まったく同じ注文内容だったので会計作業は楽でしたが、すでに顔なじみと思しきベテラン店員の女性から「わ、仲いいですねぇ! めっちゃ仲いいじゃないですか〜!!」と何度も言われてしまいました。

言葉通りに受け取って良いものか、毎月土曜に長居して閉店間際に帰っていくオッサン達への当てこすりなのか、その真意は判然としませんが、まあ悪印象を持たれて火花が散るよりマシかと思いました。

退店後はTさんのリクエストにより、DS5に試乗させていただくことに。
昔は数台集まれば、安易に試乗会のようなことをバンバンやっていましたが、時代も変わり、現在は他人のクルマのハンドルを握ることは、よほどの合意がない限り慎むというのが相互のマナーとして自然に機能しはじめた観があります。
万が一にも粗相が起これば責任問題は出るし、人間関係にも支障が出かねないことを考えれば賢明だと思われ、今回もオーナーの運転で同乗に与ったのみでした。

この日、写真にあるように4台中ハイドロは一台で、関東陣のあっぱれな気骨に比べると、軟弱な風がそよそよと吹いているようです。尤も、白いカクタスのKさんはC6オーナーでもありますが…。


余談ですが、過日TVを見ていたら、あっと驚く映像が出たので思わずスマホのシャッターを押しました。

1973年9月、パリを訪れた田中角栄がDSから降車するショット。
このあと、時の大統領であるポンピデゥーとの会談で、モナリザの日本への貸出が決まったとか。

大きめのテールランプの形状からして最後期型、おそらくは23IEパラスではないかと思われますが、当時はまだDSが生産されている時代だったことを思うと、今昔の感に堪えません。
それにしても場所はパリ、政府差し向けの最もフォーマルな使い方をされるDSに乗る賓客が、よりにもよって田中角栄というのは、まるで変な食べ合わせをしたようでした。

DS5

14年間という長きにわたって初期型C5-3Lを愛用してこられたSさんですが、A/Tの故障で一度はO/Hされたものの不調が再発、ついに修理を断念され、なんとDS5へと乗り換えられました。

ちなみに、引退となったC5は2004年型、走行約16万キロとのことで、入退院も多かったけれど寛大なオーナーに愛されて、大往生であったと云えそうです。
(一時期はご夫妻で同型C5の2台体制という時期までありました)

名義変更に同行したので、Sさんのご了解を得て、写真を交えながら私からお伝えすることになりました。

DS5は2015年型、走行わずか6500km(!)という驚きの個体で、DS生誕60年を記念して発売された限定車とのこと。
専用のデカールやシリアルナンバー、エンブレム/ホイールのセンターキャップは金色となり、ボデイはブルーアンクル(フランス語で青いインクの意)という、往年のDSに使われた色が再現されているそうです。

そのコンディションはとても中古車とは思えないもので、室内のボタン類には新車時のビニールの保護シールが付いたままであったりと、よくぞこんなクルマがあったものです。

DSブランドが立ち上がって以降のモデルゆえ、初期型のFグリルにあったダブルシェブロンは廃され、DSブランドとしてフェイスリフトされていますが、すっきりと迷いのない顔立ちになっていてます。
陸事に到着後、他県ナンバーを外して名義変更のスタートですが、クルマとしてはナンバーのない状態というのも悪くないと個人的に思います。

手続きは滞りなく進み、ついに新しい福岡ナンバーを与えられて封印が終わると完了です。
やはりこれをもって車は真の意味で所有者のものとなり、さらに土地にも根付いた感じが一気に強まってくるものですね。

思わず「どこのスポーツカーだろう?」かと言いたくなるような、スタイリッシュな運転席まわり。
各スイッチのデザインや配置、形状などが、隅々までこれでもかとデザインされており、このころからシトロエンが新たな挑戦にも打って出ていたらしいという印象。
レザーシートの編み方、ステッチの色、外観では特徴的なサーベルラインはもちろんアートな雰囲気なホイールの意匠まで、内外のありとあらゆるところがこだわり抜かれているのは呆れるばかり。

どうですか?このサイドビュー。
薄い屋根、短いリアのオーバーハングなど、シトロエンの造形言語が踏襲されていながら、新しい試みもふんだんに取り入れられて、それらが見事に調和しています。
飛行機のような三角窓、リアドア後端でキックアップするあたりはXMを髣髴とさせるものがあり、個人的にはXMのあの先はもうないと思っていたデザインですが、こういう姿へさらに変換されたんだという発見と解釈にも繋がりました。

DSを起点として、贅沢な2ドアクーペのSM、それを基に4ドア化したXM、そしてしばらく置いて突然現れたDS5、その名が暗示していたのか、これらはDSからひとつの造形の系譜として繋がっていることにようやく気いた…といえば、多少こじつけのように聞こえるかもしれませんが、そんなこじつけめいた話が作れるところもシトロエンの世界で遊ぶ楽しみの一つのような気がします。

※C5との付き合いは、一台目から通算すると19年!だそうです。

買ってはみたものの…

先日、IKEAに行った折、最後にアウトレットコーナーを覗いたら、ご覧のようなエッフェル塔の建設段階の写真を、MDFのアートパネルにしたものが売っていました。

定価2,990円のところ、生産終了品らしくなんと899円、使いみちもないのについ買ってしまいました。

できることならガレージの壁にでも架けたいところですが、かなりずっしりくる重さがあるので、それに耐えうるだけのフックをコンクリートに取り付ける自信もなく、しかたなく部屋の床に転がっています。

なんのお役立ち情報でもない、くだらないことで失礼しました。

人と車のキャラ

『幸せなひとりぼっち』という2016年制作のスウェーデン映画を見ました。
主人公は太陽のように美しい最愛の奥さんを亡くして生きる望みを失い、何度も自死を試みようとする頑固で妥協を知らない独居老人です。

世の中のことすべてが気に入らず、集合住宅のルールにも厳格、毎朝敷地内の見回りをしては違反者には容赦ない叱責と、そこから巻き起こるトラブルが日課みたいな人です。

この映画では、車が脇役として登場し、主人公は父親の代から生涯にわたってサーブだけを乗り継いでいますが、同じ住宅地に暮らす知人はボルボ一辺倒なのが甚だ気に入らない。それでも、しぶしぶ折れて和解したのに、今度はその人がBMWを買ったものだから再び関係は悪化。
また、別の人が「ルノーを買う」というと「フランス車なんか…」と切り捨てます。

そんなことを繰り返しながらも、ようやっと周囲のコミュニティに少しずつ溶け込めたかと思えた頃、雪の降る朝、静かに天に召されます。

北欧の美しい映画でしたが、トム・ハンクスがこの作品をいたく気に入って、今秋自身の主演でリメイクするのだとか。大スターが演じれば違った輝きは出るかもしれませんが、この作品に漂う微妙な雰囲気は失われるような気がします。

車というのは、選ぶ人のセンスや価値観を示す小さくはない表現で、他人のそれが気に入らないというのも、心情としてはわかる気がします。
あえてシトロエンを選ぶ我々にも、相通じるものが声にはせずとも…ありますよね。


余談ですが、このところのロシアのウクライナ侵攻では、露軍の誇る最新鋭戦車がバンバン爆破されていく映像がありますが、使われる武器はアメリカ製はもちろん、実はスウェーデンはNATO非加盟でありながら世界有数の武器開発/製造/輸出国だそうで、その兵器がウクライナにも続々と供与され目覚ましい成果を上げているんだとか。
そのメーカーというのが、なんと「SAAB」というのはびっくりで、小型飛行機とか車から抱く温和なイメージとは裏腹に、実は世界屈指の軍事メーカーで、その優れた性能の前に露軍もタジタジだとか。


いぜん見た、『ハロルドが笑う その日まで』というスウェーデン映画でも、主人公は小さくも良心的な家具店を営んできたのに、突然目の前にIKEAができたものだから、ブチ切れて自分の店に火をかけたあと、IKEAの社長を誘拐して懲らしめるための旅に出るというヒューマンドラマがありました。そこで使われるのも旧式なSAABで、スウェーデンにおいてSAABはなにか特別なものがあるんだなぁと思いました。

もしも、シトロエンが軍事メーカーという別の側面を持っていて、あのマークは実はミサイルの飛翔をあらわし、スフィアは砲弾製造術の転用からきているなんてことになったら、そりゃあびっくりしますよね。