ことしも残りわずかとなりました。
場所柄をわきまえ、映画ネタはやはり自重せねばと思っていたところ、思いがけず好意的なメッセージをいただくなどして、またご案内を続けることになりました。
以前の、滋味深い人間ドラマからだんだん遠ざかって、少し思い切ったチョイスですがよろしかったらどうぞ。
▼『幻滅』 バルザックの同名小説を原作とする2023年のフランス/ベルギー映画、監督:グザヴィエ・ジャノリ
19世紀前半、主人公の文学青年リュシアンは、田舎の印刷場で働くかたわら詩作に励むが、彼の愛人にして支援者である貴族の夫人とパリへ駆け落ちし、華やかで残酷、悪意と虚飾に満ちた、喧騒の渦中へ身を投じることに。
はじめは貴族たちの嘲笑を買うような都会のルールに疎い田舎者でしたが、人づてに新聞記者の職を手にしたことから社会の裏を教えられ、呑み込みのよいリュシアンは、めきめきと頭角を現して奸計をめぐらすまでになり、生き馬の目を抜くようなパリを舞台に、衆目を集める存在へとのし上がります。
もっぱら自分の才に頼んで、欲望の赴くまま、傲慢と放蕩のかぎりを尽くしますが、その内実は借金まみれで崖っぷち。
次々に野望を成し遂げるリュシアンですが…。
フランス映画には珍しく絢爛瑰麗な画面で、隅々まで作り込まれた大小道具や衣装などのビジュアルも楽しめましたが、やはり原作の力が根底を支えているのだろうと思います。セリフが早すぎて読むのがついていけないところがあり(でも吹替えは絶対にイヤなので)、すぐにもう一度観てしまいました。
▼『Summer of 85』 2020年、フランソワ・オゾン監督
『幻滅』で主役をつとめたバンジャマン・ヴォワザンの関連映画で何気なく観始めたところBL映画だったので、これはどうかなぁ…と躊躇しましたが、映画としては見応えのある内容であったことと、なによりシトロエンがこれでもかとばかりに登場する作品だったので、やはりお知らせしないわけにはいきません。
ノルマンディ地方の美しい海岸地方を舞台に、1985年のひと夏におこる若者の純粋とエゴが交錯する恋愛悲劇で、車はあくまで背景での小道具ではあるものの、あちらこちらにシトロエンが出まくります。
しかも、時代考証もよくされていて、80年代の、すなわちXM/Xantiaがまだ存在しなかった頃のシトロエンがぞろぞろ登場します。
海辺の道路に置かれていたCXが、別のシーンでは町中を走ってみたりと、使い回しもされているのでしょうが、ほかにDS、アミ6、GS、BX、2CVなど、わずかな瞬間ですがこれほど出てくる映画は珍しいと思います。
この時代の雰囲気を出すために全編フィルム撮影されたらしく、それもこの映画の美しさに一役買っているようです。
▼『ピアニスト』
個人的に、クルマと並ぶもうひとつの趣味がピアノなので、そのタイトルにつられて観たところ、これまた想像を絶する内容でびっくりでしたが、しかし面白い作品だったので、『Summer of 85』以上に迷いましたがご紹介することに。
舞台はウィーン、周囲から尊敬を集めるピアニストで音楽院の教師でもあるエリカは、子供の頃から音楽一筋、人生をピアノに捧げ、口うるさい母親との孤独な二人暮らし。シューベルトの大家として名を馳せ、いつも凛として冷淡、娯楽や恋愛など無縁といわんばかりの峻厳で近づきがたい女性ですが、その裏にはとてつもない秘密の一面が隠されています。主役を演じるのは、知る限り少し変わった役どころの多いイザベル・ユペールですが、この役はまさに本領発揮と思われました。
シトロエンの贅沢なクーペの名の本当の意味がこういうことかと思うと、さすがに複雑な気分にもなりますが、かつてのハイドロシトロエンのオーナーの屈折した心の奥には、クルマに向けてほんの少しこのような苦痛と快楽とが織りなす喝仰の念が潜んでいたのか…。
2003年、フランス/オーストリア、監督はミヒャエル・ハネケ
▼『パーフェクトマン 完全犯罪』
作家志望のマチューは運送や遺品整理の仕事をしながら自作を出版社に送っているが、相手にされず鬱屈した日々を過ごしています。ある日、身寄りもなく孤独死したという元軍人の部屋を処分をしていると、アルジェリア戦争で綴られた生々しい日記帳を発見。それを密かに持ち帰り、自作として作り変えて送ってみたところ、たちまち大ヒットして作家デビュー。世間の注目を浴びて、生活は一変します。
3年が経過、美しい恋人にも恵まれ、南仏の壮麗な別荘に滞在する彼女の両親からも才能ある作家として歓迎されますが、次作はまったく書けておらず、出版社には前借りまでしており原稿の催促に追われていることもひた隠しに。しだいに塗り重ねたウソもほころびかけたころ、故人の友人で日記の存在を知る男が現れ、絶体絶命の窮地に追い込まれますが…。
主役を演じるピエール・ニネの内的でメリハリのある演技と、しなやかなフランス語が印象的。
2015年フランス映画 監督はヤン・ゴズラン
今年も残すところ僅かとなりました。お陰様で楽しいシトロエンライフを過ごす事ができましたこと、ありがとうございました。
さて、待望のChirac映画館より、選りすぐりの映画紹介が掲示され、日頃よりテレビは観ない。ましてや正月のつまらない番組には愛想を尽かしていた昨今。
大いにお正月は楽しめそうです。
映画といえば娯楽大作しか観ない、余り深く考えないで観る映画が好きでしたが、人間模様の言葉のやり取りを重ねる映画を鑑賞し心に残るものを感じるようになりました。
少しはオトナとしての深みを持つようになったのか?とひとしきり感心する次第です。
映画ネタは出す度に気が咎めているので、そういっていただけると救われます。
フランス映画の魅力は、なんといっても奥深さであり、フランス人の気質であり、緻密な人間描写にあると思います。それが車に反映されたところにシトロエンがあると思うと、私の中では両者はすんなりつながります。
気に入っていただけるといいのですが…。
「Summer of 85」を見ました。なかなか面白い映画でした。不覚ながらシトロエンはCXとAmiしか分かりませんでした。
「ピアニスト」は評価が高い映画ですが見ていないので正月にでも見てみます。
AmazonPrimeは新旧併せていろいろの映画をタダで見れるので良いですね。TVの番組は見なくなりました!
映画に集中すると背景は見落としますよね。
「ピアニスト」はそうなんですか!
なかなか衝撃的な内容でしたが、面白かったです。