「それから」にいただいたコメントの中に「強力な武闘派の方」という文言がありました。
私がシトロエンに入門した1980年代のシトロエンといえば、まさにハイドロニューマティック全盛の時代。
当時はクルマに対する人々の興味や憧れも今とはケタ違いに高く、月はじめの書店にはさまざまな自動車雑誌の新号が高々と積み上げられるのが普通の光景でした。
そんな時流に乗って、多くの自動車ジャーナリストは肩で風を切り、中には、こういっては失礼だけれど、あまり丁寧な情報収集もせぬまま安易な記事を書いてはお茶を濁していた人も相当いたようで、それでもどうにかなった大雑把な時代だったのでしょう。
そんな当時でさえシトロエンはやはり異端で、その真価に着目し、熱く語っていたのは唯一カーグラだけだったように思います。
で、シトロエンは諸事において独創的であったぶん、ちょっとした記事を書くにも勝手が違ったことでしょう。
とくにハイドロニューマティックにかかわる記述は彼らなりに気を遣ったことだと思いますが、その理解はなかなか一朝一夕にはいかなかったようで、2CVが前後関連懸架であることから、ハイドロも同様に思っていた人もわりにいたようです。
オイルが全身に張り巡らされ、ハンドルもブレーキも油圧で賄うから、前後のサスペンションも連携して作動しているかのようなイメージがあったのでしょう。
これ以外にもシトロエンには、他車とは知識の流用や使い回しのきかない要素が多く、それだけ自動車誌の間違った記述も頻発したようでした。
そこに憤然と反応し、そのつど論理的な説明をつけて間違いを正し、ときに噛みつくことも辞さない一派が台頭しはじめます。
とりわけ昔のシトロエン愛好家の中には、知的レベルの高い論理派、学者、医師、建築家など少なくなく、さらにはフランス語の堪能な方などもいるから海外の書籍から直接知識を得たり、実車を手ずからバラしては、その設計思想にじかに触れ、唸ったりおののいたりしながら、その解明に無常の喜びを見出す、私設研究所みたいなものが勃興します。
彼らは、そこで得た知識や経験を蓄積し、整理し、資料や文章にまとめ上げることさ喜々としてこなしますが、チャラチャラした自動車ジャーナリストたちにしてみれば、こんな得体のしれないインテリ連中が道場破りに押しかけられるのではたまったものではなかったでしょうし、その内容においてはしっかりした裏付けがとられているから反論の余地もない。
そのつどプライドを傷つけられる出版社や自動車ジャーナリストたちは、「シトロエン乗りはヘンタイで関わりたくない、理屈屋でいちいちうるさい連中!」というようなレッテル貼りに及んだようです。
いやしくもクルマのプロを標榜していながら自分たちの不勉強を棚に上げ、間違いを正す側をヘンタイ扱いして疎んじるとは言語道断ではありますが、彼らの気持ちもまったくわからないでもなかったりします。
これがトヨタやベンツのことなら大そうマズイと思ったでしょうが、べつにあってもなくても一向構わないシトロエンなんぞのささいな間違いなど、屁理屈で因縁をつけられるような感覚だったかもしれません。
この両者は、ほとんど価値観の相容れない同士だから、「あーうるさい!こっちは忙しいんだ!」というのがおそらく本音で、その執拗な指摘の前では、内容で太刀打ちできないから「あいつらはヘンタイ!」ということで苦笑するしかなかったのでしょう。
ではあるけれど、シトロエン側の人達も、べつにメディア攻撃が目的でやっているわけではなく、ディーラーの知識や技術も脆弱で頼りにならない中、ユーザー有志が立ち上がり、自分達で研究解明するという動きにつながったものと思われます。
結果的にシトロエンの斬新かつ独創的な設計理念を、知れば知るほど感銘を新たにし、ますます入れ込んで、研究の手が休まらなくなったのだろうと思います。
そんな彼らが、日本のエセ専門家のずさんで間違った記述を目にしたとき、まあ黙ってはいられなかったのも頷けます。
当時はネットもなく、自動車雑誌は唯一の情報源であり、執筆はプロの専門家なのだから、読者は紙面に書かれていることを信じて受け入れていたわけですから、そこに間違いを書かれたのでは当然困るわけで、その影響を考えれば、たしかに罪深いことではありますね。
ただ、武闘派の動きも過激化するにつれ、シトロエン愛好家の中でもいささか孤立的な存在になっていったのも事実で、一部にはそうでない普通の文民的ユーザー?のことを一段低く見るような傾向を帯びてきたのは、さすがにちょっと行き過ぎだったようです。
とはいえ物事に功罪両面あるのは世の常で、この武闘派のお歴々のおかげで、多くの正しい知識が広められ、整備や修理における実践の扉が開かれたことも事実でしょうから、先人の奮闘には一礼すべき価値はありそうです。
そして現在、かくいう私もCCQ内で武闘派と言って差し支えない御方のお力添えを得ながら、2CVのマフラー交換などが進んでいるわけですから、その恩恵に浴して感謝しているわけです…。
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上記のお話には、添える写真もないので、わざわざ書くほどもないオマケを。
買い物でイオンに行ったら、レジ近くの床にはこんなものがペタペタ貼り付けてありました。
「こちらですよ」という意味なのはわかるけど、なーんか気になりました。
