おだてられ、すっかり調子に乗って、また映画ネタですがフランス映画3本のご紹介。
▼ 1.『落下の解剖学』2023年、ジュスティーヌ・トリエ監督。
フランスの南東部の雪山(イタリア国境近くのラ・クルヴァス)の山荘で暮らす一家。
夫婦は共に文筆業、11歳の一人息子には事故による視覚障害があり、夫はその責任の一端があって心に傷を抱えています。
妻を取材で訪ねていた客が帰宅後ほどなくして、夫は山荘の3階窓から玄関先へ転落して落命します。
介助犬とともに散歩から戻ってきた息子が、この悲惨な現場に出くわすという衝撃的なシーンからこの映画は動きだします。
警察の調べで、当時山荘には妻一人しかいなかったこと、さらにはこの時期、夫婦間には互いの執筆や生活面をめぐって諍いが絶えなかったことなどが浮き彫りとなり、妻は法廷へと引っぱり出されることに。
はたして夫は事故か、自殺か、他殺かをめぐって繰り広げられる緊張の法定ミステリーです。
▼ 2.『静かなふたり』2017年、エリーズ・ジラール監督。
友人とパリに越してきた主人公は孤独な女性、カフェの壁に貼られた求人広告から、ある古書店で働くことに。
店主は鋭い眼光の人を寄せ付けない変人で、女性から見れば祖父のような年齢。
はじめは戸惑いがあるものの、しだいに通い合うものが生まれ、やがて惹かれ合うように…。
この映画は、これというストーリーやあっと驚くどんでん返しがあるのではなく、言葉のやりとりや場面ごとの心情の描写が見どころ…だと個人的には思います。
とくに脚本は、言葉に無駄がなく、語り過ぎず、切り詰められたぶんニュアンスにあふれて見事だと思いました。
フランス人特有の、日常の隅々まであまねく行き渡るセンスや気風は、それそのものが文化であることを思い知らされます。
文化というと、ことさら身構えて、非日常の不自然に陥る日本とは、ずいぶんと隔たっていることも痛感。
「あー、シトロエンなんて、こういう人たちが無造作に使うものなんだなぁ…」と思うと、はるか東洋の島国でそれを愛玩する滑稽を悲しむ……といったら自虐が過ぎるでしょうか。
▼ 3.『バツイチは恋のはじまり』2012年、パスカル・ショメイユ監督
パリタクシーで好演したダニー・ブーンが、あれ以上に全身で活躍するラブコメディで、2とは真逆の痛快作品。
はじめはせわしない感じもありますが、すぐに慣れて面白く見ることができました。
ストーリーは映画にはありがちな話であえて説明する必要もありませんが、娯楽物でもハリウッド映画とはひと味違い、フランスの手にかかるとベタつかない感覚が好ましく、アメリカ車とフランス車の違いのように感じました。
シンプルに笑って楽しめる映画。
『パリタクシー』より10年前にもかかわらず、ダニー・ブーンのまったく変わらない様子に驚き、『静かなふたり』の名優ジャン・ソレルはこのとき83歳というのですから、お見事というほかありませんでした。
〜以上、いずれもAmazonPrimeで視られます。